林一記、海外から見る「日本」を学ぶ③

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 江戸時代、畜産業がそれほど盛んではなかったため、肥料となる動物の糞が不足していた。そのため農民は人間の大便を使用しており、夜な夜な農民自身や汲み取り業者が回収していた。


 国中の道には農家や地主によってトイレが設えられていた。大便ほどではないにしても、尿も回収されたという。

 し尿の回収販売は大切な産業であり、これを盗めば投獄されることもあった。汲み取り産業は組織的に行われ、固定された相場が存在し、回収権をめぐって争いが起きた。

 1772年に起きた事件では、大阪ワナタベ村の汲み取り業者に尿の独占的回収権が与えられたことが発端で、他の業者と争いが起き、トイレの破壊活動まで行われたという。

 そしてこの汲み取り業は、江戸時代の日本を当時世界で最も清潔な国にする。ヨーロッパの各都市が、窓から投棄される糞尿で不潔極まりなかったのと対照的である。おかげで江戸時代に不衛生を原因とする疫病が蔓延することはなかった。